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仕事を馬力ではなく燃費で測るようにした話

分析の仕事を長く続けていると、どこかで測る軸を変えることになる。若いうちは出力で測っていた。何本さばいたか、どれだけ深く踏み込めたか、何時まで粘れたか。馬力の話だ。

いまは燃費で見ている。同じ成果を出すのに、どれだけの気力と時間を燃やしたか。この軸に変えてから、続けられる仕事とそうでない仕事の区別がはっきりついた。

馬力と燃費は別の性能になる

車の性能を語るとき、最高速と燃費は別の指標になる。最高速が高い車が長距離に向いているとは限らない。仕事も同じで、瞬間的にどれだけ出せるかと、同じ出力を何ヶ月続けられるかは別の話になる。

二十代の頃は、この二つを混同していた。徹夜で仕上げた資料が通れば、自分の能力が高いのだと思っていた。実際には、タンクが大きかっただけだった。容量が大きいと燃費の悪さが表に出ない。空になるまでの距離が長いので、燃料計を見ずに走れてしまう。

三十代の半ばあたりで、容量のほうが先に減る。同じ働き方をしていると、以前より早く空になる。ここで馬力の物差しを持ったままだと、単純に自分が衰えたという結論になる。実際には、測り方が現実に合わなくなっただけになる。

燃費をどう測るか

厳密な数値は要らない。週に一度、二つ並べて見るだけでいい。

・その週に前に進んだこと。仮説が一つ潰れた、意思決定が一つ下りた、仕組みが一つ動いた
・その週に燃やした実感。頭が重かった日数、家に持ち帰った量、休んでも抜けなかった感じ

この二つを並べると、成果が同じでも燃やし方がまるで違う週があると分かる。そして燃やし方の差は、たいてい仕事の中身ではなく、仕事のまわりの条件で決まっていた。

自分の場合、燃費の悪い週には共通点があった。誰が決めるのかが曖昧なまま議論が続いた週。同じ説明を相手を変えて三回した週。分析そのものより、分析を通す作業のほうが長かった週。どれも出力は出ているのに、燃料の減りが異様に速い。

燃費が落ちる三つの原因

観察していると、燃料の減り方は次の三つでだいたい説明がついた。

一つ目はアイドリングになる。動いていないのに燃料だけ減っている状態のことで、待ちがこれにあたる。データの受け渡し待ち、承認待ち、相手の返信待ち。手は空いているのに、頭のどこかがその案件を掴んだままなので、休んでいることにならない。止まっている時間そのものより、掴み続けていることが減らす。

二つ目は坂道になる。決まらない意思決定を抱えたまま進む仕事は、ずっと登り坂を走っているのに近い。分析の精度を上げる作業より、目的が定まらない状態で分析を続ける作業のほうが、はるかに燃料を食う。技術的な難易度と燃費は比例しない。難しいが目的が明確な仕事は、意外と燃費がいい。

三つ目は空回りになる。一度やった作業を、再現できない形で終わらせると、次に同じ場所からもう一度走ることになる。手順を残していない集計、口頭で済ませた合意、名前をつけていない中間データ。走った距離は同じでも、進んだ距離がゼロになる。

実際に効いた手当て

原因が三つなので、手当ても三つになる。どれも地味だが、順番に効いた。

アイドリングには、掴んだままにしないことを当てた。待ちが発生したら、いつ再開するかを決めて、そこまでは自分の頭から降ろす。カレンダーに置くだけでいい。降ろす先を作らないと降ろせないので、置き場所を先に作る。これだけで、週末に持ち帰る量がはっきり減った。

坂道には、決めてもらう作業を仕事に含めることを当てた。以前は、決まっていないなら決まるまで手を動かして待つ、というやり方をしていた。いまは、決まっていないという事実のほうを先に出す。分析結果を三通り作って持っていくのではなく、どれを選ぶかで結論が変わりますと言って選んでもらう。嫌われる場面もあるが、燃費は劇的に良くなる。

空回りには、終わり方を固定することを当てた。どんな小さな作業でも、次に同じことをする人が同じ場所から始められる形にしてから閉じる。スクリプトに残す、条件をメモに書く、中間ファイルに名前をつける。作業時間は一割ほど増えるが、二回目以降がまるごと消える。長い目で見れば圧倒的に安い。

燃費で見ると転職の判断も変わる

この軸は、日々の仕事だけでなく、居場所の判断にも使える。

同じ職種でも、環境によって燃費は何倍も違う。決める人が近くにいるか、一度やったことが積み上がる仕組みがあるか、待ちが構造的に少ないか。この三つが揃っている場所は、同じ成果を出すのに燃やす量が少ない。給与が同じでも、消耗の速度が違うので、続けられる年数が変わってくる。

逆に言うと、燃費が悪い場所で頑張り続けることは、馬力の証明にはなっても、キャリアの前進にはなりにくい。以前に分析職を長く続けるためのメンタルケアについて書いたが、あれと同じ話をもう少し機械的な言い方にしたのがこの記事になる。気力の問題として扱うと精神論になるが、燃費として扱うと改善できる項目に分解できる。

まとめ

・出力ではなく、同じ成果を出すのに燃やした量で見る
・タンクの容量は年齢とともに減る。容量で押し切る働き方は先に壊れる
・燃費を落とすのは、待ち(アイドリング)、決まらない状態(坂道)、再現できない作業(空回り)の三つ
・手当ては、待ちを頭から降ろす、決めてもらう作業を仕事に含める、終わり方を固定する
・環境によって燃費は何倍も変わる。続けられる年数が変わるので、居場所の判断にも使える

長く走るための性能は、最高速の隣にある別の目盛りになる。そちらを見ていなかった頃より、いまのほうが仕事は楽しい。