台風を、つくる。半日で進路シミュレーターを組んだ話
心配性は、台風が来ると進路図を10回更新する
正直に書くと、私は台風シーズンになると気象庁の進路予想図を一日に何度も開く人間だ。 予報円が日本にかすっているだけで、なんとなく落ち着かない。来るのか、逸れるのか。 あの「えいやで決まったわけではなく、無数の計算の上に引かれている曲線」を眺めるのが、こわくて、でも少し好きだ。
ある夜、いつものように進路図をリロードしながら、ふと思った。 受け取るばかりじゃなくて、自分で台風を動かせたら面白いのでは。
というわけで、半日でブラウザ上の「台風進路シミュレーター」をつくった。 海面水温と太平洋高気圧の張り出しをスライダーで変えると、渦を巻いた台風が西太平洋の地図の上を発達しながら進んでいく。九州に上陸させることも、日本の東をかすめて去らせることもできる。
全部を正しく解くのは、たぶん間違い
データサイエンスを仕事にしていると、つい「正確に解きたい」欲が出る。 台風だって本気でやれば、流体力学と熱力学と海洋データを突っ込んだ大規模な数値計算になる。スパコンの世界だ。
でも今回つくりたかったのは予報ではなく、「台風という現象の手触り」だった。 だから割り切って、効く要素だけを残した。
- 暖かい海(海面水温)の上では発達し、気圧が下がる
- 北上して水温が下がる/上陸すると弱まる
- 中心気圧から最大風速をざっくり逆算する
- 太平洋高気圧の縁に沿って、低緯度では西へ、高緯度では北東へ転向する。あの放物線を描く進路だ
たったこれだけで、画面の中の台風は驚くほど「台風らしく」振る舞いはじめた。 発達して、目ができて、日本に近づき、上陸して衰える。式の数より、現象の本質を数本だけ掴むほうが効く。捨てる勇気が、モデルの解像度を決める。
引き算で、要点を立てる
完璧に解こうとしないことが、今回はむしろ効いた。 海面水温と高気圧という二本のラインを引いただけで、「台風が日本に来る/逸れる」という一番伝えたい挙動が立ち上がった。
どこを残して、どこを省くか。これは仕事の提案資料でも、キャリアの自己紹介でも、たぶん全部同じだと思っている。
AIと組むと、心配性が前に進める
もう一つの発見は、つくる速度だ。 「西太平洋の地図に、渦を巻く台風を置きたい」みたいな曖昧な注文から始めて、対話しながら少しずつ詰めていったら、半日で公開できる形になった。
心配性の私は、ふだん「ちゃんと動く保証がないもの」になかなか手を出せない。 でも、隣で一緒に試行錯誤してくれる相手がいると、「とりあえず動かしてみる」の心理的なハードルがぐっと下がる。 完璧な設計図がなくても、手を動かしながら考えられる。これは思っていた以上に効いた。
最後に、念のため
このシミュレーターはあくまで体験用のおもちゃだ。 物理を大胆に簡略化しているので、本物の進路予測ではまったくない。表示される号数や名前も演出にすぎない。
実際に台風が近づいてきたら、進路図は気象庁の発表を見てほしい。 そしてその曲線の裏側に、途方もない量の計算と、それを引いている人たちがいることを、ほんの少しだけ想像してもらえたら嬉しい。
私はまた、今年も何度もリロードすると思う。
(PC・スマホ対応。海面水温と太平洋高気圧をスライダーで動かせます。あくまで体験用のおもちゃで、本物の進路予測ではありません。)