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ターミナルで動くAIコーディングエージェント「Pi」を調べてみた

「また新しいAIコーディングツールか」と思いながらブラウザを開いた。それが正直な第一印象だ。

pi.dev にアクセスすると、トップに一行だけキャッチコピーが書いてある。“There are many agent harnesses, but this one is yours.” 多くのエージェントハーネスがある。でもこれは、あなたのものだ。それだけで、ちょっと立ち止まった。

Pi とは何か

Pi は Earendil Inc. が開発するオープンソースのターミナルベースAIコーディングエージェントだ。npm でインストールでき、インストールコマンドは一行でいい。

curl -fsSL http://pi.dev/install.sh | sh

あるいは npm / pnpm / bun でも入る。まずそこから始められる。

ただ、Pi が他のコーディングエージェントと違うのは、機能の多さではない。むしろ逆だ。「何を作らなかったか」を堂々と書いているのが印象的だった。

「作らなかったもの一覧」がある

Pi のサイトには “What we didn’t build” というセクションがある。そこには以下が並んでいる。

  • MCP サポートなし
  • サブエージェントなし
  • 許可確認ポップアップなし
  • プランモードなし
  • 組み込み To-do リストなし
  • バックグラウンド bash なし

最初は「機能が足りないだけでは?」と思った。だが読み進めると、これが意図的な設計だとわかる。

「欲しければ、自分で作れ。あるいは Pi に作らせろ」というのが Pi の答えだ。拡張機能はTypeScriptモジュールとして書け、ツール追加もコマンド追加もキーバインド変更も全部できる。Pi 自身に「自分をカスタマイズしてほしい」と頼むことも可能で、その場でコードを書いて /reload すれば即座に反映される。

これは Claude Code や Cursor のような「全部入り」ツールとは真逆の哲学だ。

15以上のモデルプロバイダーに対応

対応しているプロバイダーが広い。Anthropic、OpenAI、Google、Azure、Bedrock、Mistral、Groq、Cerebras、xAI、Hugging Face、Ollama など15種類以上。セッション途中でも /model コマンドや Ctrl+L でモデルを切り替えられる。

複数のモデルを試しながら使うスタイルにはかなり向いている。特定のAIサービスに縛られたくない人にとって、この柔軟さは実用的だ。

ツリー構造のセッション履歴

Pi のセッションはツリー構造で保存される。過去のどのメッセージにも戻れ、そこから分岐して別の方向に進むことができる。全部の分岐は一つのファイルに収まる。

作業の途中で「さっきの方向でやり直したい」と思ったとき、履歴を辿って戻れるのは地味に便利だ。/export でHTMLに書き出せるほか、/share でGitHub Gistにアップロードして共有URLを得ることもできる。

エージェントが動いている間に指示を割り込める

Pi が動作中でも Enter でステアリングメッセージを送ることができる。今の処理ツールが終わった後に割り込んで残りの処理を止める動きをする。一方、Alt+Enter で送ると処理が全部終わってからフォローアップとして届く。

AIエージェントに長い処理を任せているとき、途中で「あ、その方向じゃなくて」と思うことは多い。そのたびに中断して再指示するのは面倒だった。ステアリングの仕組みはその問題に対する実用的な回答だと思った。

スキルとコンテキストエンジニアリング

Pi は「スキル」という仕組みを持っている。使うときだけ読み込む能力パッケージで、最初からすべてをコンテキストに詰め込まない。プロンプトのトークン効率をコントロールできる。

また AGENTS.md や SYSTEM.md をプロジェクトごとに置くことで、指示内容やシステムプロンプトをカスタマイズできる。コンテキストウィンドウの上限に近づいたときの自動圧縮も拡張機能でカスタマイズ可能だ。

実際どんな人に向いているか

Pi は、既製品のワークフローに乗るのが嫌いな人向けだ。デフォルトのツールを使うたびに「もうちょっとこうだったら」と思い続けてきた人が、Pi を触ると「なるほど」となる可能性が高い。

逆に、とりあえず動けばいいという人には、機能が欲しいと思うたびに自分で作る必要があるのでコストが高い。Pi は道具というより素材に近い。

また、Pi の SDK は実際に OpenClaw という製品に組み込まれており、現実のプロダクション利用の実績がある。おもちゃではない。

気になった点

MITライセンスのオープンソースで、ドメインは exe.dev から寄贈されたと書いてある。開発主体の Earendil Inc. という会社についての情報はサイトにほとんどなく、コア開発者の Mario Zechner 氏がブログを書いている。小さなチームが作っているプロジェクトだと思われる。

拡張性の高さは魅力だが、使いこなすにはTypeScriptの読み書きができることが前提になる。コードが書けない人にはハードルが高い。

それでも、「エージェントを自分でカスタマイズする」という発想が当たり前になってきたこの時期に、そのための土台を明確に提供しようとしているのは面白い立場だと思った。全部入りのツールに疲れたら、一度試してみる価値はある。