レッサーパンダはなぜ一日中食べているのか。笹の収支を試せるシミュレーターを作った
動物園でレッサーパンダを見ていると、たいてい笹を食べている。かわいいなで済ませていたのだが、あれは食べていないと間に合わないからだと知って、少し見え方が変わった。
食肉目なのに主食が笹という無理
レッサーパンダは分類上は食肉目にあたる。クマやアライグマ、イタチと同じ仲間で、体のつくりも基本的には肉を食べるものになっている。それなのに実際に食べているものの大半は笹や竹の葉になる。
ここに無理がある。竹や笹は繊維ばかりで、草食に特化した動物のような発酵に頼る消化のしくみを持っていないと、食べた量のうち身になる割合はとても小さくなる。牛のように何時間もかけて分解するわけではないので、通り抜けていく分が多い。
結果として、量で補うしかなくなる。体重の何割にもあたる笹を毎日食べ、そのために起きている時間のほとんどを使うことになる。動物園でいつも食べているように見えるのは、実際にいつも食べているからだ。
何時間食べれば釣り合うのかを試す
その収支を自分で動かせるようにしたのがこのアプリになる。設定するのは3つだ。
・季節。春夏、秋、冬。寒くなるほど体温維持にエネルギーが要る ・笹の質。やわらかい若葉、ふつうの葉、かたい茎。質が落ちるほど同じ量でも得られるものが減る ・動く量。じっとしていれば消費は少ないが、良い笹に出会いにくい
そのうえで、笹を食べる時間を0時間から20時間まで動かす。食べた笹の量、そこから得たエネルギー、使ったエネルギー、そして体重が一日で何グラム増減するかが出る。
春夏にふつうの葉を食べる条件だと、収支がゼロになるのは12.7時間あたりになる。13時間食べてようやくとんとんで、そこから増やしてもたいして貯まらない。野生のレッサーパンダが一日13時間ほど採食するという報告と、だいたい同じところに落ちる。
冬に痩せる理由が数字で見える
面白いのは季節を変えたときだった。
・春夏、ふつうの葉。12.7時間で釣り合う ・秋、ふつうの葉。13.5時間 ・冬、ふつうの葉。15.4時間 ・かたい茎はどの季節でも、20時間食べても足りない
冬は消費が増えるうえに笹の質も落ちるので、必要な採食時間が跳ね上がる。そして質の悪い部分しか食べられない条件では、一日中食べ続けても収支がマイナスのままになる。どう頑張っても足りない、という状態が数字で出てくる。
野生のレッサーパンダが冬に体重を落とすのは、怠けているからではなく、そもそも解が存在しない期間があるからだということが、スライダーを動かしていると腑に落ちる。
第六の指と、名前の順番
アプリの下に、調べていて面白かったことをいくつか置いた。
前足には第六の指と呼ばれる出っぱりがあり、笹の枝を挟んで持つのに使われる。ジャイアントパンダにも似た構造があるが、両者は近縁ではない。まったく別の系統が、竹を掴むという同じ課題に対して、同じような答えを別々に出したことになる。
もうひとつ、パンダという名前はもともとこちらを指していた。ジャイアントパンダのほうが後から知られたので、区別するためにレッサー、つまり小さいほうという語が足された。名前の順番としては、こちらが先輩になる。
実装の話
例によって外部ライブラリなしの単一HTMLで、レッサーパンダの絵もCanvasに直接描いている。楕円を重ねて胴と頭を作り、白い顔まわりと目の上の模様、縞のしっぽを足していく。体重の収支に応じて胴の幅が変わり、冬に採食時間を極端に減らすと、しっぽを体に巻きつけて丸まる姿になる。
数値のモデルは体重5kgの個体を想定した概算で、笹1グラムから吸収できるエネルギー、季節ごとの基礎的な消費、採食1時間あたりの活動コスト、といった単純な足し算引き算で組んである。実際の値は個体や地域で大きく変わるので、正確な数値というより、桁と傾向を体感するためのものだと思ってほしい。
作ったあとに、食べる時間を増やすほど収支が改善することと、季節や笹の質を変えたときに必要時間が正しい向きに動くことを、条件を総当たりして確かめた。ここが逆になっていると、伝えたいことと逆のことを伝えてしまう。
まとめ
・レッサーパンダは食肉目だが主食は笹。消化しにくいので量と時間で補うしかない ・春夏のふつうの葉で、収支がゼロになるのは13時間前後。野生の採食時間の報告とだいたい合う ・冬は15時間以上必要になり、かたい茎しかない条件では20時間食べても足りない ・第六の指はジャイアントパンダとの収斂進化。パンダという名前はもともとレッサーパンダのもの ・レッサーパンダの一日から試せる