9月から変わるのは労働基準法ではない。手取りが動く本当の理由
秋になると、9月から制度が変わるという話が出てきます。労働基準法が変わるらしい、という形で耳にすることもあります。
ただ調べてみると、その2つは別のものです。9月に変わるのは労働基準法ではありません。
労働基準法の改正は、まだ施行されていない
2026年の時点で、労働基準法の改正法案は通常国会への提出が見送られています。条文も施行日も確定していません。審議が本格化するのは2026年後半から2027年にかけて、という見通しです。
つまり、9月から労働基準法が変わるという情報は正確ではありません。
議論されている論点はいくつかあります。いずれも検討段階のもので、決まったものではありません。
・部分的フレックスタイム制の導入
・勤務間インターバル制度の義務化
・いわゆる「つながらない権利」に関するガイドラインの作成
・14日以上の連続勤務の禁止
・副業や兼業をしている人の割増賃金ルールの見直し
どれも働き方に直接効く内容なので、成立すれば影響は大きくなります。ただ現時点では、来年こう変わりますと言い切れる段階にありません。仮に成立しても、多くの規定は経過措置を置いて段階的に施行されると見られています。
実際に9月から変わるのは、社会保険の標準報酬月額
では何が9月から変わるのか。社会保険料の計算に使う標準報酬月額です。
健康保険料と厚生年金保険料は、実際の給与そのものではなく、標準報酬月額という区切られた金額に料率を掛けて計算されます。この標準報酬月額を年に一度見直す手続きが定時決定で、算定基礎届と呼ばれます。
流れはこうです。
・4月・5月・6月に実際に支払われた給与をもとに、会社が算定基礎届を作る
・例年7月10日までに年金事務所へ提出する
・そこで決まった標準報酬月額が、その年の9月分から翌年8月分まで適用される
保険料を翌月控除にしている会社が多いため、手取りに反映されるのは10月に支給される給与からになるのが一般的です。9月に決まって、10月に効いてくる、という時間差があります。
春に残業した人ほど、秋の手取りが減る
この仕組みの要点は、判定に使われるのが4月から6月の3か月だけ、という点です。
年度替わりの繁忙期に残業が集中した人は、その3か月の給与が高くなります。その結果、標準報酬月額が上がり、9月分から保険料が上がります。夏以降に残業が減っていても、上がった保険料は翌年8月まで続きます。
逆に、たまたま春が閑散期だった人は、年間の収入が同じでも保険料が安く済みます。不公平に見えますが、制度としてはそういう作りになっています。
なお、昇給などで報酬が大きく変わった場合には、定時決定を待たずに見直す随時改定という別の手続きがあります。9月の改定だけがすべてではありません。
自分の場合を確かめる方法
会社には、決定内容を知らせる通知書が届きます。そこに新しい標準報酬月額が書かれているので、前年と比べれば上がったか下がったかが分かります。給与明細の控除額を9月と10月で見比べるのも確実です。
料率のほうも押さえておくと計算できます。執筆時点で、厚生年金保険料率は18.3パーセントで全国一律です。健康保険料率は都道府県や健康保険組合によって違い、協会けんぽの東京都では9.85パーセントとなっています。いずれも労使折半なので、給与から引かれるのはその半分です。
手取りの計算に慣れていない場合は、学振の手取り計算機のように、額面から控除を差し引いて手取りを出す仕組みを一度触っておくと、明細の読み方が分かりやすくなります。
混同すると、確認する場所を間違える
労働基準法と社会保険を混同すると、困ることが起きます。
手取りが減った理由を法改正だと思い込むと、実際の原因である標準報酬月額の通知書を確認しないまま終わります。逆に、労働時間や休日のルールが変わったと思って就業規則を探しても、変わっていないので見つかりません。
9月に動くのはお金のほうで、働き方のルールはまだ動いていない。この切り分けだけ持っておけば、確認する場所を間違えずに済みます。
残業と手当の扱いについては、みなし残業と固定残業代の違いにも書きました。4月から6月の給与がどう積み上がっているかを知るうえで、あわせて読むと分かりやすいと思います。