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博論日記 [書籍紹介]

3年で終わるつもりが、もう7年目・・・奨学金なし、貯金なし、社会人経験もほとんどない・・・博論が終わってもポストがない・・・周りは何をしているのか全く理解してくれないし、「で、まだ博論書いているの?」と言われ続ける日々。自身もかつて博論に失敗した経験をもつ作者が、ジャンヌという若い女学生を描くことを通して、博論を執筆する院生の苦悩や、陰鬱な日常生活をコミカルに描いた作品である。

この作品の面白さは、そもそも一般の人にはあまりなじみがない「博士課程進学」を主題に扱っていることにある。博士課程とは、大学院に進学し、修士課程を経た後、さらに研究活動を続ける学生に用意された課程であり、修士の学生にとっては精神的バリアが高く、修士からの進学率もそれほど高くない。そんな博士課程に足を踏み入れてしまった者は一体何をしているのであろうか? 気にはなるが、なかなか聞けない生活を生々しく、皮肉たっぷりに解説してくれるこの本は、院生の「バイブル」とも言えよう。

作中では、主人公のジャンヌが、憧れの大学教授カルポに博士課程の研究テーマを相談する場面があるのだが、カルポ教授の対応が冷たい。カルポはやはり研究者であるので、自身の研究テーマへの関心は強いのだが、学生の世話など全く見る気がないのだ。実は、カルポにとって院生と顔を合わせる日は、うんざりの日で、院生から事前に送られてきた博論は紙くずでしかないと思っている。主人公のジャンヌに対する扱いも例外ではなく、顔を合わせる日はおざなりなコメントを2,3残して、国際学会のための海外出張に飛び立ってしまうので、研究生活のほとんどは放置だという有様だ。この説明を見て、なんてひどい教授なんだ、と思うかもしれないが、自分自身で研究を究める博士のテーマには、実際、教授はあまり口をださないのである。なので、研究がうまく進もうが、頓挫しようが、全て自己責任である。運の悪いことにジャンヌの研究はそれほどうまく進まなかったので、目標としていた3年での卒業をあっさりと断念し、4年経っても、5年経っても、論文の章構成すら決まらない、苦悩の生活に陥っていくのだ。

年数が経つにつれてどんどん人相が悪くなっていくジャンヌも見ものだ。最初の1年くらいは新しい研究に希望をもって取り組んでいる様子だったが、非常勤講師の給与が払われなかったり、家族や親せきと顔を合わせるたびにいつ卒業するのかを聞かれ、果ては恋人とはストレスのせいでケンカ続きで、最後に「永遠に試験中の学生みたいな生き方をして全く嫌にならないのか?」と言われて別れてしまう始末。世間では、博士号を取得するためには、人として大切なものを失わなければならないと、冗談で言われているが、こうも切実に語られていると、その冗談は本当のようにも思えてくる。

題名と表紙の雰囲気から、エッセイ小説のようにも見えるが、漫画作品なのでとても読みやすい。博士課程に進もうかどうか悩んでいる院生は、是非とも目を通してほしいものだ。

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